葛根湯に関する文献レビュー
感冒初期への使用、臨床研究、安全性の整理

RESEARCH REPORT

公開日:2026年4月11日 最終更新日:2026年4月11日 富山和漢研究所 編集部 検索日:2026年4月11日
漢方 葛根湯 感冒初期 上気道症状 文献レビュー
⚠ 免責事項

本レポートは公開情報の整理を目的としたものであり、診断・治療・服薬判断の代替を意図するものではありません。発熱が高い、呼吸苦がある、症状が長引く、基礎疾患や妊娠がある場合は、医師・薬剤師などの医療専門職にご相談ください。

0. 要点

SUMMARY
  • 葛根湯は、医療用添付文書上では、自然発汗がなく、頭痛、発熱、悪寒、肩こりなどを伴う感冒、鼻かぜ、頭痛、肩こり、筋肉痛、手や肩の痛みに用いられる漢方製剤です[1]。
  • 感冒初期を対象とした2014年のランダム化比較試験では、葛根湯は総合感冒薬に対して症状悪化抑制の点で優越性を示していません[2]。
  • 一方で、この試験は「葛根湯が無効」と示したというより、早期の感冒症状に対して既存の総合感冒薬と大きな差がなかったことを示した研究と読むのが妥当です[2]。
  • 安全性では、マオウとカンゾウを含むため、動悸、不眠、排尿障害、血圧上昇、偽アルドステロン症、低カリウム血症などに注意が必要です[1]。

1. このレポートで答える問い

  1. 葛根湯は、公式情報ではどのような症状・病態に用いられているか。
  2. 感冒初期に対するヒト研究は、どこまで有用性を示しているか。
  3. 安全性や併用上の注意点として何が重要か。
  4. 現時点で、どこまで言えて、どこから先は未確定か。

2. 背景と定義

葛根湯は、カッコン、タイソウ、マオウ、カンゾウ、ケイヒ、シャクヤク、ショウキョウの7生薬から構成される漢方処方です[1]。日本では感冒初期に広く用いられる代表的な漢方の一つですが、承認適応には肩こりや筋肉痛なども含まれています[1]。本レポートでは、感冒初期に関する医療用添付文書とPubMedで確認できる臨床研究を中心に整理します。

3. 構成生薬をみる

葛根湯は、日常的な知名度の高い生薬と、漢方に特有の印象を持つ生薬が同居している処方です。ショウガやシナモンのように食文化とつながる素材もあれば、マオウや葛根のように生薬としての顔が強いものもあります。ここでは、各生薬を素材として見たときの特徴と、処方の中でどう読まれやすいかを整理します。

生薬 素材としての概要 処方内での見られ方
葛根 クズの根に由来する生薬で、和菓子や料理で知られる葛粉の原料としてもなじみがあります。日常文化と漢方が交わる分かりやすい素材の一つです。 処方名にも入る中心生薬で、首筋や背中のこわばり、感冒初期の張りつめた感じと結びつけて読まれることが多いです。
麻黄 マオウ科植物の地上茎に由来する生薬です。葛根湯の中では、最も作用が鋭い印象を持たれやすい構成要素です。 発汗や上気道症状の文脈で語られることが多く、処方全体に勢いを与える側の生薬として理解されます。
桂皮 シナモンとして知られる樹皮に由来する生薬です。香りのイメージから、読者にも比較的親しみやすい素材です。 体表の冷えや張りをゆるめる方向で語られやすく、葛根湯の温かみのある印象を支える要素です。
芍薬 ボタン科植物の根に由来する生薬です。観賞用植物としてのシャクヤクのイメージと、生薬としての根の利用がつながっています。 緊張の強いところを和らげる側として読まれることが多く、葛根湯の中でも張りをほぐす方向に位置づけられます。
甘草 マメ科植物の根や根茎に由来し、甘みを持つ生薬です。食品や香味の文脈でも知られます。 味や全体の調和を整える生薬として広く使われ、葛根湯でも処方全体をまとめる一方、安全性では注意点の中心になります。
大棗 ナツメの果実に由来する生薬です。乾燥果実という形で扱われることが多く、比較的食材イメージを持ちやすい素材です。 処方にやわらかさを与える生薬として理解されることが多く、葛根湯の鋭さを和らげる側に置かれます。
生姜 ショウガの根茎に由来する生薬で、日常食としても非常によく知られています。 温かさや軽い発散性を支える生薬として理解されやすく、感冒初期の処方らしい印象を補強します。

葛根湯を読み物として面白くするポイントは、「漢方薬」だけでなく「植物や食文化の集まり」として見ることです。葛粉の原料になる葛根、シナモンとして知られる桂皮、食材として親しい生姜や大棗が一つの処方の中に並ぶことで、感冒初期に用いられる処方の性格が視覚的にも伝わりやすくなります。

4. 情報収集方法

2026年4月11日に、医薬品医療機器総合機構(PMDA)の医療用医薬品情報とPubMedを参照しました。主な検索語は「Kakkonto clinical trial common cold」「Kakkonto randomized common cold」「Kakkonto upper respiratory tract infection」です。出典は、1. 公的機関の添付文書、2. ヒトのランダム化比較試験、3. 基礎研究の順で優先しました。なお、本稿は系統的レビューではなく、公開文献を整理した narrative review です。

5. 公式情報から分かること

PMDA掲載の医療関係者向け情報では、葛根湯は「自然発汗がなく、頭痛、発熱、悪寒、肩こり等を伴うものの次の諸症:感冒、鼻かぜ、頭痛、肩こり、筋肉痛、手や肩の痛み」に用いるとされています[1]。成人の通常用量は1日7.5gを2〜3回に分割し、食前または食間に経口投与するとされています[1]。

  • マオウを含むため、体力の低下した患者や発汗傾向の強い患者では適さない場合があります[1]。
  • 高血圧、心疾患、腎疾患、甲状腺機能亢進症などがある患者では慎重投与が必要です[1]。
  • 重大な副作用として、偽アルドステロン症、低カリウム血症、ミオパチー、肝機能障害などが記載されています[1]。
  • 交感神経刺激作用のある成分を含むため、不眠、動悸、発汗過多などにも注意が必要です[1]。
EVIDENCE LABEL

現時点の総合評価:限定的な臨床根拠
葛根湯は感冒初期で広く使われる一方、PubMedで確認しやすい比較試験は多くありません。現在のヒト研究からは、感冒初期の症状に対して一定の使用実態はあるものの、標準的な総合感冒薬を明確に上回ることまでは示されていません。

6. 臨床研究の概観

今回確認できた中心的なヒト研究は、感冒初期の患者を対象に、葛根湯と総合感冒薬を比較した多施設ランダム化比較試験です[2]。加えて、鼻上皮細胞を用いた基礎研究では、ライノウイルス感染に伴う炎症反応への影響が検討されています[3]。

出典 研究デザイン 対象 主な結果 読み方
Okabayashi et al., 2014[2] 多施設ランダム化比較試験 発症48時間以内の感冒初期症状を自覚した成人 407例 症状悪化抑制に関して、葛根湯は代表的な総合感冒薬に対する優越性を示さなかった。 感冒初期に使われる処方である一方、少なくともこの試験では既存薬を明確に上回らなかった。
Yamaya et al., 2021[3] 基礎研究 ヒト鼻上皮細胞のライノウイルス感染モデル 炎症性サイトカイン産生やウイルス量に影響を与える可能性が示された。 作用仮説として参考になるが、ヒトの症状改善を直接示すものではない。

5-1. 有望といえる点

葛根湯は感冒初期に広く用いられており、比較試験でも実臨床に近い条件で検討されています[2]。また、基礎研究では、ウイルス感染に伴う炎症反応への影響が示唆されており、伝統的使用を補う薬理学的な仮説は存在します[3]。

5-2. 一貫しない点・言いにくい点

一方で、2014年の比較試験では、葛根湯が総合感冒薬に対して症状悪化抑制で優越性を示したわけではありません[2]。そのため、「感冒初期に特に強い臨床効果が確立している」とまでは言いにくく、少なくとも現時点で確認できたヒト研究だけでは、効果の大きさを強く断定するのは難しい状況です。

5-3. 肩こりなど他適応の位置づけ

添付文書には肩こり、筋肉痛、手や肩の痛みも含まれていますが[1]、今回確認したPubMed文献では、これらの適応について比較的質の高い臨床試験を十分に確認できませんでした。したがって、本稿では感冒初期に関する情報を中心に扱い、他適応への評価拡張は控えます。

7. 安全性・副作用・相互作用

葛根湯の安全性で重要なのは、マオウとカンゾウに由来する副作用です[1]。添付文書に基づき、特に注意したい点を整理すると以下の通りです。

  • カンゾウ含有製剤やグリチルリチン酸含有製剤との併用では、偽アルドステロン症や低カリウム血症のリスクが高まる可能性がある[1]。
  • 交感神経刺激作用に関連して、動悸、不眠、発汗過多、排尿障害などに注意が必要です[1]。
  • 高血圧、心疾患、腎疾患、甲状腺機能亢進症がある場合は慎重投与とされている[1]。
  • 重大な副作用として、偽アルドステロン症、低カリウム血症、ミオパチー、肝機能障害が記載されている[1]。
⚠ 医療相談を優先したいケース

高熱、息苦しさ、胸痛、強い咽頭痛、数日で改善しない症状がある場合や、高血圧、心疾患、甲状腺疾患、前立腺肥大、妊娠中、他の感冒薬や漢方薬を併用している場合は、自己判断より先に医療機関や薬局での確認が望まれます。

8. どこまで言えるか

葛根湯について現時点で言いやすいのは、「感冒初期などに用いられる承認処方であり、感冒初期を対象にした比較試験もある」という範囲です[1][2]。一方で、「総合感冒薬より明確に優れている」「感冒に対する効果が強く確立している」といった表現は、今回確認できた文献からは支持しにくいと考えられます。

9. 限界と未解明点

  • PubMedで確認しやすいヒト比較試験の数が多くない[2]。
  • 感冒初期以外の適応について、比較的質の高い臨床研究を十分に確認できていない[1]。
  • 基礎研究の知見はあるが、ヒトでの症状改善にそのままつながるとは限らない[3]。
  • 長期安全性というより短期使用を前提とする処方であり、漫然とした継続使用の根拠は乏しい[1]。

10. 読み解きのポイント

葛根湯は、感冒初期で広く用いられてきた処方として承認適応と使用実態がありますが、現在確認できた臨床研究だけで強い優越性を示すとは言いにくい状況です。したがって、発症早期の選択肢の一つとして位置づけつつ、症状の経過観察と安全性確認をあわせて行うことが重要です。

参考文献・出典

  1. 医薬品医療機器総合機構(PMDA). ツムラ葛根湯エキス顆粒(医療用) 医療関係者向け情報. https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/rdSearch/02/5200013D1123?user=1(閲覧日: 2026年4月11日)
  2. Okabayashi S, Goto M, Kawamura T, Watanabe H, Kimura A, Uruma R, et al. Non-superiority of Kakkonto, a Japanese herbal medicine, to a representative multiple cold medicine with respect to anti-aggravation effects on the common cold: a randomized controlled trial. Intern Med. 2014;53(9):949-956. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24785885/
  3. Yamaya M, Nishimura H, Nadine LK, Ota C, Kubo H, Nagatomi R. Kakkonto Inhibits Cytokine Production Induced by Rhinovirus Infection in Primary Cultures of Human Nasal Epithelial Cells. Front Pharmacol. 2021;12:688494. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34531740/